『変貌する労働時間法理 』

『 変貌する労働時間法理 ―― 《働くことを考える》 』変貌する労働時間法理

2009年5月15日,法律文化社より刊行

序文

 最近労働時間をめぐる裁判が増加し,社会的関心も高まっている。立法化の動きについても,一連の立法(たとえば企画業務型裁量労働制)が実際にどのように運営されているか,またどのような問題があるかははっきりしない。将来的にはホワイトカラ−・エグゼンプション構想も再燃することが予想される。

 北海道大学労働判例研究会では,ほぼ毎週判例研究をし,最新の労働裁判をフォローし,『法律時報』『季刊労働法』『労働法律旬報』『TKCローライブラリー』等に定期的に発表している。そこで取り上げている事案に占める労働時間に関連した事件は増加する傾向にある。同時に多様な紛争が発生し,業務命令性の判断をどうするか,また賃金請求との連動等労働契約法理の根幹が争われている。にもかかわらず,判例の全体像さえも不明確であり,実務的・理論的に未解明の論点が多い。

 労働時間法については,コンメンタールや個別判例評釈は多いが,独立したモノグラフは少ない。とりわけ,労働時間の法理を,契約論まで含めて,判例・学説を全体として本格的に検討した研究は,荒木尚志『労働時間の法的構造』(有斐閣,1991年)を除いて少ない。特に,最近の裁判例が提起した問題を正面から論じたものは皆無といえる。

 本研究会は,大学の研究者だけではなく,弁護士・社労士等の実務家も多く参加している。定期的にかなりの密度で判例研究をし,毎年100件近くの裁判例を取り上げている。さらに,北大研究会は,日本労働法学会において労働時間関係文書の作成について使用者の時間管理義務の観点から共同研究し発表し,一定の評価を得ている。

 そこで,本書では,関連条文や裁判例の紹介だけではなく,理論的に何が問われているかも念頭におき労働時間法理の解明を目指すことにした。それを踏まえて,《働くこと》とは何かを考えていきたい。

編者を代表して 道幸哲也

目次

第1章 なぜ労働時間か ……………………… 道幸 哲也 (北海道大学教授) 

  1. 労働時間法理の何が問題か
  2. 労働時間の意味・意義
  3. なぜ労働時間規制をするか
  4. 時短政策を考える際の留意点
  5. 労働時間規制のアウトライン
  6. 労働時間論
  7. 賃金論との連動

第2章 労働時間規制とその構造 ……………………… 山田 哲 (東京農大講師) 

  1. はじめに
  2. 労働時間規制の展開
  3. 労働時間規制の適用除外
  4. 労働時間規制の実効確保措置

第3章 労働時間の算定および労働時間規制の緩和規定 …………… 戸谷 義治 (北海道大学大学院) 

  1. はじめに
  2. 労働時間規制の緩和
  3. 労働時間の算定方法
  4. 検討

第4章 労働契約と労働時間 〈1〉 労働時間論 …………… 浅野 高宏 (弁護士) 

  1. はじめに
  2. 労基法上の〈労働時間〉と労働契約法上の〈労働時間〉
  3. 労働契約法における労働時間
  4. 業務命令権の制約 〈総論〉
  5. 業務命令権の制約 〈各論〉
  6. 請求権としての雇用関係文書へのアクセス権

第5章 労働契約と労働時間 〈2〉 文書による労働時間管理義務 …………… 浅野 高宏 (弁護士) 

  1. はじめに
  2. 労働時間管理方法と労働時間算定についての裁判例
  3. 労働契約に基づく労働時間管理上の文書作成義務
  4. 文書による労働時間管理義務を設定する効果

第6章 労働契約と労働時間 〈3〉 賃金請求権との連動 …………… 開本 英幸 (弁護士) 

  1. はじめに
  2. 所定内労働に対する賃金請求権
  3. 所定外労働に対する賃金請求権
  4. おわりに

第7章 労働時間の決定・変更方法 …………………… 斉藤 善久 (神戸大学准教授)

  1. はじめに
  2. 法定内労働時間にかかる労働条件の決定・変更
  3. 法定労働時間制度の適用

第8章 労働時間規制と生命・生活 …………………… 大石 玄 (北海道大学講師)

  1. はじめに
  2. 長時間労働と過労死の関係
  3. 業務起因性についての裁判例
  4. ホワイトカラー・エグゼンプションをめぐって
  5. うつ病と長時間労働
  6. 休み方から考える働き方のルール
  7. ワーク・ライフ・バランスをめぐって

第9章 労働時間法理における《休むこと》のあり方 ………………… 國武 英生 (北九州大学准教授)

  1. はじめに
  2. 〈休むこと〉をめぐる法政策の歴史
  3. 〈休むこと〉をめぐる現行法と判例法理
  4. 今後の〈休むこと〉のあり方

終章 《労働》のあり方を考える ………… 道幸 哲也 (北海道大学教授)

  1. 労働契約論との関連
  2. 労働時間規制について
  3. 労働時間と《働くこと》

著者紹介

道幸 哲也 (どうこう・てつなり)

山田 哲 (やまだ・てつ)

戸谷 義治 (とや・よしはる)

淺野 高宏 (あさの・たかひろ)

開本 英幸 (ひらきもと・ひでゆき)

斉藤(押見) 善久 (さいとう・よしひさ)

大石 玄 (おおいし・げん)

國武 英生 (くにたけ・ひでお)


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